誰が一番の悪人なのか？
「塙侯爵一家」（横溝正史）
（「横溝正史ミステリ
短篇コレクション②」）柏書房
「塙侯爵一家」（横溝正史）
（「塙侯爵一家」）角川文庫
霧深いロンドンの街の片隅で
秘密裏に進められたある計画。
それは、
莫大な資産家塙侯爵の息子で
欧州留学中の安道を、
思い通りに操れる偽物と
すり替える
畔沢大佐の陰謀だった。
日本に戻った偽安道は
見事にその役柄をこなし…。
横溝正史が戦前に書き著した
中編小説の傑作です。
昨日取り上げた
乱歩の｢パノラマ島奇譚｣も
遺産相続人への成り代わりであり、
その悪行は見事に完遂されるのですが、
果たしてこちらは
どのような結末をたどるのか？
読みどころは悪人どうしの
裏のかき合いといった
ところでしょうか。
まずは人物一覧から。
【主要登場人物】
畔沢欣吾
…謎の組織に所属する軍人。
偽安道を仕立て上げ傀儡とする。
安道の従兄。
塙安道
…塙侯爵の七男。
英国留学中、病に倒れる。
鷲見信之助
…英国留学中の画家の卵。
偽安道として振る舞う。
沢村美子
…沢村家令嬢。安道に好意を寄せる。
須藤医師
…畔沢大佐の計画に加担する医師。
本書で暗躍する悪人①
ずぼらな策略家･畔沢大佐
発端となる悪人は畔沢大佐です。
秘密組織の一員として
まさに暗躍しているのですが、
緻密な計画を練っている割には
かなりずぼらです。
偽安道を操っているつもりが、
偽安道に至るところで
一杯食わせられています。
秘密組織への会合についても
変装もせずに出席し、
メンバーからあきれられる始末。
そして最後には何者かに組織の存在を
警察に密告され、
壊滅に追い込まれるという
大失態を演じるのです。
悪人は悪人なのですが、
どうやら一番の悪人ではなさそうです。
本書で暗躍する悪人②
善か悪か？真安道か偽安道か？
畔沢大佐の傀儡と思われた
偽安道ですが、
次第に本性を現していきます。
遺産相続のために美子を捨て、
同じ資産家の樺山家の
令嬢･泰子を娶るのですが、
その一方で鷲見信之助の
恋人だった女性とも接触し
関係を重ねます。
畔沢大佐を一つ上回るような
悪人の気配を醸し出しているのですが、
その行動の真意は？
本書で暗躍する悪人③
第三の悪人の正体は？
畔沢大佐と偽安道の思惑をよそに、
安道の正体を疑う姉･加寿子の顔に
硫酸をかけて大怪我を負わせ、
さらには安道の父･塙侯爵を暗殺する
第三の悪人が潜んでいます。
偽安道の正体を掴んでいるとみられる
｢黒衣の女｣の出没と絡み、
謎が謎を呼びます。
最後に大どんでん返しの展開が
待ち受けています。
誰が一番の悪人なのか？
ぜひ読んで
確かめていただきたいのですが、
こちらもやはり三十数年間絶版中です。
電子書籍か古書をあたるしか
読むことができなかったのですが、
幸いなことに、
2017年に柏書房から刊行された
｢横溝正史ミステリ
短篇コレクション｣に収録され、
読むことが可能となりました。
それでも杉本一文表紙の新刊復刻版を
なんとかして読みたいと思うのが
人情でしょう。
没後40年となる今年、もしくは
生誕120年となる来年、何らかの形で
復刊されることを望みます。
〔本書:横溝正史ミステリ短篇
コレクション①の収録作品一覧〕
「鬼火」
「蔵の中」
「かいやぐら物語」
「貝殻館綺譚」
「蠟人」
「面影双紙」
「塙侯爵一家」
「孔雀夫人」
「鬼火(オリジナル版)」
（2021.1.8）
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ミステリ短篇コレクション】
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